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歪アリ追加エピ感想 ~和田康平が何故『異邦人』になり得たのか~

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昔書いたやつの転載。

 

はい、歪みの国のアリスアンコールが配信されましたね。おめでとうございます。本エントリは追加エピソードである『追憶の国の異邦人』を読んで、叔父アリ派である私が未読勢に向けて感想をメモしとこうという、そのぐらいの趣旨のものです。
なのでなるべく視点は中立を保ちますが、主観的な意見も含まれますでしょうし、猫アリ派、武アリ派の方は不快になるかもしれません。ご了承ください。
あ、無論ネタはバレッバレです。『追憶の国の異邦人』を読まれてからお読みください。

さて。『追憶の国の異邦人』とはどんな話だったのか。あらすじはこうです。
→和田康平は目覚めると学校の自習室におり、なぜそうなったのか記憶にない
→机の上には灰色のフードを被った怪しい男がおり、チェシャ猫と名乗る。チェシャ猫はアリスを追いかけるよう求める
→アリスという人物に覚えはないが、いなくなったときと同じ赤いエプロンドレスを着た姪御が部屋を出ていくのを見、康平はいてもたってもおられず追いかける
→ホテルで幽霊のような男とあまりに大きな女性の夫婦に会ったり、廃ビルで緑の髪の男にシチューを勧められたり、公園で帽子を目深すぎるぐらいに目深にかぶった少年と眠ったネズミにあったりしながら康平は姪御のあとを追う。奇妙な人物たちはみな自分を『オジサン』と呼ぶ
→辿り着いた城で、康平は鎌を持った少女に「アリスを追いかけないで、連れていかないで」と言われ、首に鎌をかけられるが、「アリスが傷つく」といい、鎌を外させる
→動揺した少女は「――わたくしはどこにも行かないから」、「ここでずっとあなたを想っているから」と、康平でなく誰かに向けた言葉を泣きながら話した。
→康平が「いいんじゃないか、それで」と笑うと少女は驚いたような顔をした
→康平が城の中を追いかけていくとアリスは4歳ぐらいの女の子になり、自分は学ランを来た高校生になっていた
→そんなアリスを抱き上げる白い影。長い二本の耳。シロウサギはあやしていたアリスをなだめて康平に渡すと「僕らのアリスを頼んだよ、オジサン」と言って歪んだ
→歪む世界に康平は小さなアリスを守るように抱えて落下する

→目覚めると、姪っ子は当然高校生で心配したように康平の顔を覗き込んでいた。どうやら康平は仕事先で階段から落ちたらしい
→夢と現実が曖昧になった康平は姪の手を掴み、「もうシロウサギをおいかけなくていい」という
→ハッと気が付いて手を離すと天井から灰色のフードの首が落ちてきた
→チェシャ猫を紹介され、チェシャ猫が『僕らのオジサン』と言い出したので亜莉子が「私のおじさんだもん!」とむくれながらチェシャ猫に「コーヘーサン」呼びを教える
→そんな様子を見ながら康平は姪を託した二人の声を思い出す。「僕らのアリスを頼んだよ」、「お願いね、康ちゃん」。二人の分まで姪を見守って行こう。

END

……いや私が妄想した話じゃないです。がちです。まじで。
結果的に叔父がアリスを守る人間として歪みの国メンバーズから試練を受ける話でした。ありがとうございます! やったね康ちゃん! 両親(セコム)へのご挨拶は済んだよ! さあついに結婚だ! 完!

……という風に終わってもどうしようもないので、ここである議題を設けます。それは、何故この追憶の国の『異邦人』が和田康平であったか、です。

和田康平の話をします。
彼は主人公アリス(葛木亜莉子)の戸籍上の叔父でありながら、歪アリ本編で出るのは後半も後半、まず前半で不審者のフラグを立てつつ、騒動の解決には一切関わらずむしろミスリード役、結果的に最終選択肢で叔父エンドを選ぶまではその内情が知れないというとても不遇な人物です。その不遇さはコラム『内緒の国のアリス』で「最終稿で悪役になりかけた!」とのエピソードからも伺い知れることでしょう。歪みの国という物語の舞台で、どこまでも部外者、どこまでも傍観者、それが和田康平です。
が、しかし一方で現実世界で葛木亜莉子の過去を知る唯一の人物でもありました。火事で父親を亡くし、そのことで母親から恨まれ、妄想の友人を作って遊んでいた、という亜莉子自身が忘れた過去を知る人物、それが和田康平です。彼は亜莉子以外で唯一、歪みの国の存在を知る人物でした。
冗談めかしに『叔父がアリスを守る人間として歪みの国メンバーズから試練を受ける話』という言い方をしましたが、それは本質としては間違っていないと思います。というのも、最初に会った公爵夫妻を除いて、和田康平は問いかけられている。

最初はビル、「何故追いかけるのか、追いかけることは追い詰めることじゃないのか」
次に帽子屋、「何故追いかけるのか、追いかけてどうしようというのか」
最後に女王、「追いかけないで、あなたの贖罪に利用しているのでしょう」
全体を通して、康平は『何故追いかけるのか』という点でずっと問われ続ける。しかし康平は戸惑いながらも答えを出していく。「過去に関わらないことを選んだから」、「どうもしない」、「贖罪でもいい、ただそばにいたい」。
最初のビルの問いにて、康平の行動の軸は”追いかける”ことと”関わらない”ことの二つが対極になっていることがわかります。関わらない道を選んだから、今度は追いかけたい、そばにいたい。
そう選んだ和田康平に首を切れなかった女王(しかも首を切れなかった理由は叔父を傷つけたらアリスが悲しむと康平自身に言われたからです。なんたる侮辱でしょう、そりゃ女王も泣くわ)は泣きながら訴えます。
「――わたくしはどこにも行かないから」、「ここでずっとあなたを想っているから」。これは無論アリスに向けた言葉です。
追いかける、そばにいる、と言った和田康平に、女王はこの時点で対抗しているわけです。女王だけではありません、むしろ歪みの国の総意でしょう。現実に連れ出そうとする叔父に、それでも歪みの国はアリスが忘れなければ私たちは傍にいると訴えるのです。例えアリスが現実に帰ってしまっても。会えなくなっても。
そしてその言葉に叔父は笑って答えます、「いいんじゃないか、それで」。
現実に連れ出そうとするはず叔父が、現実には存在しないアリスの逃げ場を受け入れ、その存在があることを笑って許す。そのことに女王は驚きます。
叔父は唯一アリスの歪みの国を知っていた人間。そしてそれを受け入れる人間だということが、ここで明示されました。
母親さえ、受け入れなかった話を。

蛇足////////////ガイドブックネタバレ//////////////////////
蛇足ですが、先日発売されたガイドブック収録の『白雪姫の国のアリス』でもう一人不思議の国の住人と対峙した人物がいました。武村です。武村は王子役で白雪姫役のアリスを花嫁にしようとするのですが、ついてくるチェシャ猫を殺そうとします。
ここから少なくともパロディでの武村が歪みの国を否定する立場であるという示唆が伺えます。
そして首を刈ろうとする女王の城(おそらく歪みの国)へも戻れず歪みの国を否定する武村へも嫁げず途方に暮れたアリスに猟師である叔父は「うちにくるか」と持ち掛けます。
歪みの国、それの否定。どちらも選べない亜莉子を受け入れたのはこのパロディでも叔父でありました。
////////////////ガイドブックネタバレ終了/////////////////

そして叔父は世界の果てにて小さなアリスを抱くシロウサギと対峙します。シロウサギは何も言いません。ただあやしていたアリスを渡そうとします。受け取った叔父は、
「その体は、思ったよりもずしりと重く、思ったよりもぐにゃりとして柔らかかった」
と述べています。そしてシロウサギはアリスを託すと血に塗れながら歪んでいきます。あらすじには書きませんでしたが、ここで小さなアリスは「や……!」とシロウサギに手を伸ばすのですが「だめだ!」と叔父が抱え込みます。
これはおそらく歪アリ本編の再現かと思います。歪むシロウサギを受け入れることは出来なくて、アリスは誰かの声を思い出し、シロウサギを刺す。それが今回は叔父だったということなのでしょう。
そして受け取ったアリスが重く、柔らかいのはアリスを受け入れるということも現実とのリンクでもあると考えられます。重くて、抱きにくくて(しかも最初アリスは嫌がります)、けれども何度も抱き直す。家族を奪い、家族を奪われたことのある葛木亜莉子を受け入れるということは畢竟そういうことである。
そして歪んだ世界から彼らは落下という形で現実世界に帰ります。

以上が夢での話です。そしてこの夢の話から叔父の亜莉子に対してのスタンスが示されました。

・和田康平は葛木亜莉子の傍にいることを選択した
・和田康平は葛木亜莉子の歪みの国を許容する
・葛木亜莉子を受け入れることは重くて抱えにくいがそれでも和田康平は抱えようとする

まあなんつーかすげーなって思いました。素直に。
冗談めかしに両親(セコム)と言いましたがシロウサギは亜莉子の父親と服装が同じです。和田康平は母親と父親(シロウサギ)に亜莉子を託された。
そして亜莉子は猫に『オジサン』呼ばわりされると亜莉子は「私のおじさんだもん!」と膨れます。そう、彼女は和田康平を叔父と認めているのです。
一応叔父アリマンなので色々と関係性を付加させて物語を書いているのですが、公式の亜莉子は(当たり前ですが)和田康平を叔父と認め、そして康平はそのことにとても満足しているのです。
例え重くて抱えにくくても。例え現実世界を見ないことがあっても。それでも和田康平は叔父として、葛木亜莉子の傍にいることを選んだ。

いやだいぶすげーな。というのが総合的な感想です。
正直ここまで『叔父』としてのあまりに立派な和田康平を描かれるとは思っていなくて、めちゃめちゃ叔父アリ妄想し尽くしといて良かったなと思いました。私事で失礼ですが。
この叔父なら少なくとも武村以外の亜莉子の恋人をふつーに受け入れそうでそこのバックアップも整ってるなーとか。福利厚生強い。どこに転んでもおいしい。
本当に私事なんですが、叔父エピの影響で私の作品が結構評価されたりブックマされたりし始めてるのですが、ここまで立派な叔父出されたら私など。正直なところ、叔父アリは叔父エンドで落ちた方がおそらく多数で幸せになってほしい、報われて欲しいと思って妄想してる方も多いと思うんですが。公式が素晴らしい回答を9年越しで提示してくれたので、私がやることもうないんじゃないかなって思いました。

和田康平は葛木亜莉子(とそのセコムたち)に望まれた家族である。何それ最強じゃねーか。

さて、今回の議題は何故、和田康平が追憶の国――歪みの国の異邦人、になり得たのか?でした。
彼が一度葛木亜莉子と葛木由里を見捨てて関わらなかった部外者であり、そして唯一歪みの国を知る人間であり、そして今その国を受け入れることを選んだ人間だからです。
歪みの国を壊そうとする(否定しようとする)敵ではなく、けれども住人ではない、『異邦人』。
彼は、歪みの国から現実世界へ戻ろうとする亜莉子を連れ戻し、けれどもその国を否定しない。
現実世界での家族として、歪みの国をひっくるめた葛木亜莉子を受け入れることを選んだ人間なのです。

いやーほんとすっげーな。

余談ですが最後の最後で叔父の職業分かるんですよ。以下それへの妄想書いときますね。

叔父は大学の後輩の南さんがやっている探偵事務所に勤めています。南さんが社長ですが後輩なので上司と言う感じはないそうです。
やばいっすね。いや『和田康平 職業:探偵』のやばさについてはまたツイッターでめちゃめちゃ語ります。
問題は南さんです。童顔で、先輩である叔父をヘッドハンティングという名で拉致り社員にし、叔父が階段が落ちれば「いや大丈夫、先輩丈夫だから」と爆笑する南さんです。
……キャラ設定盛りすぎじゃね!?
正直びっくりするほど“南さん”のキャラがめちゃめちゃ立ってたのでここで私は一つの予想を立てます。

予想! 次のナイトメアプロジェクトの主人公は童顔で探偵社社長で和田康平を社員にした南さんである!
なんなら叔父も出る! 新作に! 端役で!
じゃなきゃここまで優遇しねーよ! 何なんだよ! 新作のキャラ紹介ということにでもしとかなきゃこええよ! 叔父の優遇っぷりが怖い! 温度差に風邪引くわ!

はい、というわけでここまで読んでいただいてありがとうございました! 叔父エピいいよ! みんな口コミで広めてね!(草の根活動)

(2015/12/24)